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京都地方裁判所 平成6年(ワ)3545号 判決

原告

竹下和之

ほか三名

被告

安田火災海上保険株式会社

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告竹下みゆきに対し金二五〇万円、原告竹下和之、同竹下知行、同竹下博基、同竹下友梨に対し各三一万二五〇〇円及び前記各金員につき平成四年一〇月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実並びに証拠(甲一ないし四(枝番含む。))及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実

1  事故の発生

平成四年一〇月二〇日午後七時三四分頃、山口県佐波郡徳地町大字堀中国自動車道上り四五一・九キロポスト付近道路上において、竹下和昭(以下「和昭」という。)は、同人運転の普通貨物自動車(姫路四四た九〇八七号。以下「本件車両」という。)の車両下部から白煙が生じたため、エンジンの様子を見ようとして同車を左路側に停車させ、運転席右側ドアを半開きにして、右ドア付近に佇立していたところ、後方から、有村穣二が、普通貨物自動車を運転し、白煙が立ち込めているのを認めながら、時速五五ないし六〇キロメートルに減速したのみで白煙内に進入し、右車両の左前部を和昭に衝突させた(以下「本件事故」という。)。

本件事故により、和昭は、頭蓋骨骨折等の傷害を負い、同日午後八時五一分頃死亡した。

2  自動車総合保険契約の存在

被告と株式会社ユキオーは、平成四年三月一一日、本件車両について、自動車総合保険契約(PAP)を締結しており、右契約によれば、自動車総合保険普通保険約款搭乗者傷害条項の「被保険自動車の正規の乗車用構造装置のある場所に搭乗中の者が被保険自動車の運行に起因する急激かつ偶然な外来の事故により身体に傷害を被つたとき」(以下「本件条項」という。)には保険金を支払うものとされ、右搭乗者が死亡したときは、死亡保険金五〇〇万円を相続人に支払うものとされていた。

3  原告らの相続

原告竹下みゆきは、和昭の妻であり、原告竹下和之、同竹下知行、同竹下博基、同竹下友梨は、和昭の子であつて、各人の相続分は、竹下みゆきが二分の一、他の原告が各八分の一である。

二  原告らは、本件事故による和昭の死亡が本件条項に該当するとして、請求欄記載のとおり前記保険金の支払を請求する。

三  本件の争点は、本件事故において、和昭が本件条項の「自動車の正規の乗車用構造装置のある場所に搭乗中の者」に該当するか否かである。

第三当裁判所の判断

一  自動車総合保険普通保険約款の搭乗者傷害条項にいう「正規の乗車用構造装置のある場所」とは、一般に、乗車人員が動揺・衝突等により転落・転倒等をすることなく、安全な乗車を確保できるような構造を備えた運転席・助手席・車室内の座席をいうものと解され、また、「搭乗中」とは、前記の場所に乗車するため、その直結する用具(ドア、ステップ等)に手足等をかけたときから、前記の場所から降車するために、手足等を右用具から離し、車外に両足をつけるまでをいうものと解される。

二  本件事故の状況につき、証拠(甲四の1、3、5、7ないし9、11、18、19、23ないし26)及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。

1  和昭は、本件車両を運転し、本件事故現場手前のパーキングエリアで停車してエンジンオイルを補給したが、その後スピードが落ち始めるなどエンジンの不調に気付き、さらに白煙が車体の下の後方から吹き出す状態となつたため、本件車両を左側外側線付近に、車体右側が外側線から走行車線に約〇・八メートルはみ出した位置で停車させ、五、六秒間エンジンの調整を試みた後、同乗していた森下義博に対して「このままではエンジンが爆発するかも知れない。車を降りよう。」と声を掛け、助手席から森下を降ろすとともに、和昭自身も運転席から車外に降りた。

2  そして、和昭は、運転席のドアを開けた状態で、片足をアクセル付近に入れて、アクセル調整を行うなどしたが、白煙がさらに車体の周囲に立ち込めた状態となり、同人は、足を下ろして両足を路面につけ、運転席側ドア付近の外側線から約一・六メートル(車体から約〇・八メートル)の位置に本件車両と左斜めに対面して立つていた状態で有村穣二運転車両と衝突した。

三  そこで右事実に基づき本件条項の「搭乗中」に該当するか否か検討すると、本件事故時の和昭は、本件車両の外に出て両足を路面につけていたものであること、原告は和昭が手をドア等にかけていた旨指摘するが、衝突時に同人の手が本件車両のドア等にかかつていたか否かは、本件証拠上、必ずしも明らかではなく、また、仮に、ドア等にかかつていたとしても、同人が本件車両を降りた事情、同人の動作の経過、衝突時の同人と本件車両との位置関係、本件車両の状況等からみて、それが乗車もしくは降車のための一連の動作として行われたものとは認めがたいことからみて、本件事故は、エンジン調整等のために降車して作業中の事故というべきであつて、本件車両に搭乗中の事故と認定することはできない。

四  よつて、原告らの請求は理由がない。

(裁判官 齋木稔久)

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